人情外野席
今年の日本シリーズは、チケット確保が難しい。4戦目は、辛うじて甲子園の左翼外野席を入手した。
普通の球団であれば、応援団は左翼、右翼の外野席で、甲子園の場合、右翼が応援席なのだが、最近の甲子園ではソフトバンクの応援席を除いて、立ち上がらないだけで、すべて応援席みたいなものだ。
左翼の外野、ただ外野はフェンスが低いので、ホームまでの抜けは良い。
通路を隔てて私の隣に30代くらいの男が座っていた。日本シリーズのチケットは指定はできず、自動で振り分けられる。私もそうだが、1人の客は、通路側になる可能性が結構高いのだ。
真後ろはソフトバンクの応援席。上からトランペットや太鼓の大音量の応援が降ってくる。
試合開始まで40分ほどもあったが、この男はすでに酎ハイを飲んでいる。
質が悪いなと思ったのは、カップを2つ持っていたことだ。球場でこういう飲み方をする人は「アルコールを切らしたくない」と思っている。1杯目が少なくなったら、2杯目を注文する。常に、ちびちびと飲んでいたいと思っているわけだ。
甲子園の外野席はカップホルダーがついていない。当然、飲料は足元に置くことになる。
ビールの売り子が、カップに気が付かずに倒してしまった。液体はその男と前のお客の足元にこぼれた。売り子は恐縮してティッシュを出して拭き始めた。係員も飛んできて、その男に謝って一緒に拭いている。
飲料が無料でサービスされたようで、男はもそもそ言いながら酎ハイをもう1杯注文した。そしてまた足元にカップを2つ置いてちびちびやり始めた。
トイレかタバコか、男が立った拍子に今度は自分でカップをこぼしてしまった。しかし、この時点で相当酔っぱらっていた男は、そのまま階下に降りていった。
前の家族連れは「仕方がないなあ」と言う感じで荷物を退避させ、ティッシュを出して拭いている。
男が席に戻った時には、すでに意識もうろうとしていたようだ。
8回に、阪神は佐藤輝明のタイムリーで得点が入ると、左翼席も総立ちになった。
件の男も立ち上がったが、そのまま倒れ込んで、階段を10m以上も転がり落ちた。
周囲から悲鳴が起こる。男は這い上がってきたが、鼻から血が噴き出している。
周囲の人が駆け寄ってきて、ティッシュ類を顔に押し付けて血をふき取っている。近所のビールや酎ハイの売り子も駆け寄って、男の顔を拭いている。まるで野戦病院のようだ。
周囲の人は口々に「どや、大丈夫か?」「医務室いこか?」などと言ったが、男は重たい口で「はあ、大丈夫です」と言って座りなおした。
人間と人間の距離感の近さは、関西人ならでは、そしてタイガースファンならではなのかもしれない。
試合終了まで男は朦朧としながらも「かっとばせー、きなみ」とつぶやいて応援に参加していた。
虎の人間模様は濃厚だ。その一端を見た思いがした。
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